令和6年(受)第204号 残存費用等請求事件は、供給開始日から10年経過前にプロパンガスの供給契約を終了させる場合に設置費用相当額の支払を求める条項について、最高裁判所第三小法廷が2025年(令和7年)12月23日に、消費者契約法9条1号の違約金等条項に当たり、その全部が無効になると判断した事件です。
「会社を変えたいと伝えたら、17万円の請求書が届いた」。
契約書に「10年経過前に解約した場合は設置費用を支払う」と書かれていれば、その金額は払うものだと受け止めてしまいます。事業者から算定式まで示されれば、なおさらです。
このページでは、その条項を全部無効と判断した最高裁判決を、事件番号・参照法条・原審の判断・射程の限界まで、一次情報で確認できる形に解剖します。判決の要旨だけでは見えない「どの事情が、どの条文の、どの要件を満たしたのか」という道筋を追います。
この記事の結論
- 最高裁判所第三小法廷が2025年12月23日に言い渡した判決で、結果は破棄自判。裁判官全員一致で、林道晴裁判官の補足意見が付されている
- 判断は2段階。第1段階で条項が違約金等条項に当たるとし、第2段階で平均的な損害は存しないとして、条項の全部を無効とした
- 分かれ目は、設置費用とガス料金の関係が契約上明確にされていたかどうかにある
- 事業者が契約者全体から得られる料金で設置費用を回収できる仕組みであったことが、平均的な損害を否定する決め手になった
- 補足意見は、三部料金制の下で設備費が基本料金・従量料金と区別して請求される場合には、本判決の射程が当然には及ばないと述べている
本記事の判断軸は、家計コスト分析調査員 葉山知世が提唱する「公的データ照合型 適正価格判定」(拙著『公的データで読み解く プロパンガス料金の適正水準』に詳述)に基づきます。本記事は同メソッドの第3層「法令・判例の照合層」を用いて、裁判所公式サイトの裁判例検索と判決全文により一次情報を確認し、事件番号・参照法条・原審の判断・射程の限界を整理する位置づけです。判決が触れていない事項について、当サイトの側から結論を補うことはしていません。
令和6(受)204号とはどの事件か──事件番号・裁判年月日・法廷・結果
令和6年(受)第204号 残存費用等請求事件は、最高裁判所第三小法廷が2025年12月23日に言い渡した民事判決で、結果は破棄自判です。原判決を破棄し、事業者側の控訴を棄却して、第一審の消費者勝訴の結論を確定させました。
判例を読むときは、事件番号・参照法条・裁判要旨の3つを起点にすると射程を最短で把握できます。まず識別情報を確認します。
以下は、裁判所公式サイトの裁判例検索および判決全文(一次情報)を確認して整理したものです。
| 事件番号 | 令和6年(受)第204号 |
|---|---|
| 事件名 | 残存費用等請求事件 |
| 裁判年月日 | 令和7年12月23日 |
| 法廷名 | 最高裁判所第三小法廷 |
| 裁判種別 | 判決 |
| 結果 | 破棄自判 |
| 意見の別 | 裁判官全員一致(林道晴裁判官の補足意見あり) |
| 原審裁判所名 | 東京高等裁判所 |
| 原審事件番号 | 令和5年(ネ)第2212号 |
| 原審裁判年月日 | 令和5年10月26日 |
| 参照法条 | 消費者契約法(令和4年法律第59号による改正前のもの)9条1号、民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)420条1項、民法420条3項 |
出典
- 事案番号:令和6(受)204 残存費用等請求事件
- 公表日:令和7(2025)年
- 機関名:最高裁判所第三小法廷
- 一次情報URL(裁判例):https://www.courts.go.jp/hanrei/95265/detail2/index.html
- 一次情報URL(判決全文):https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-95265.pdf
- 参照法条:消費者契約法(令和4年法律第59号による改正前のもの)9条1号、民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)420条1項、民法420条3項
ここで1つ、確定状況の読み方に関わる点を挙げておきます。本判決は、裁判所公式サイトの裁判例検索で「判例集等巻・号・頁」の欄が空欄です。同じ日に同じ小法廷が言い渡した令和6(受)1373号が民集第79巻8号2903頁に登載されているのと対照的です。
判例集への登載は、その判決が確定していないことを意味しません。最高裁判所の判決は言渡しによって確定し、登載の有無はその後の編集上の扱いです。判決の効力を確認する起点は、判例集の巻号ではなく、事件番号と一次情報URLにあります。当サイトの法的事例データベースが信頼度の判断に一次情報URLの確認を必須としているのは、この区別のためです。
何が争われたのか──21万円の設置費用と10年逓減条項の構造
争われたのは、建売住宅の購入者が供給開始日から10年経過前にプロパンガスの供給を終了させた場合に、設置費用21万円を基準とする算定式で得た金額を事業者に支払う、という契約条項の効力です。事業者はこの条項に基づいて17万3775円と遅延損害金の支払を求め、購入者は同条項が消費者契約法9条1号により無効になると主張して争いました。
判決が確定した事実関係を時系列で並べると、この事件の構造が見えます。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 令和元年頃 | 事業者が、住宅の販売会社が販売する戸建て住宅に、消費設備に係る配管・ガス栓、給湯器およびそのリモコン等を設置。その設置費用等を住宅の販売会社に請求していない |
| 令和元年6月 | 購入者が住宅の販売会社から当該住宅を購入。その際、販売会社から「販売会社が指定するプロパンガス販売事業者から供給を受ける必要がある」と説明を受ける |
| 令和元年7月 | 購入者が事業者との間で供給契約を締結。供給を受け始める |
| 令和3年6月 | 購入者が別の事業者から供給を受けることとし、当初の事業者からの供給が終了 |
契約書の条項は3つの部分から成っていました。第1に、事業者が住宅にプロパンガスを供給する期間は供給開始日から10年以上とすること。第2に、事業者が負担した設置費用は21万円(消費税込み)であり、購入者が供給を受けている間は請求しないこと。第3に、供給開始日から10年経過前に供給を終了させる場合、次の算定式で得た金額を供給終了後直ちに支払うことです。
21万円 −{21万円 × 0.9 ×(供給開始日から供給終了日までの経過月数 ÷ 120)}
この算定式に請求額17万3775円を当てはめて逆算すると、経過月数は23か月です。令和元年7月の供給開始から令和3年6月の供給終了までの期間と一致します。21万円のうち9割にあたる18万9000円が120か月で逓減する設計で、1か月あたり1575円ずつ減っていく計算です。
事実関係のうち、判決が後の判断で重く扱ったのは次の2点です。事業者が住宅の販売会社に設置費用を請求していなかったこと。そして購入者が、住宅を買う段階で「この事業者から供給を受ける必要がある」と説明されていたこと。設置費用は、購入者が契約する前の段階で、購入者以外の相手との関係で発生していました。
なお本件では、消費設備が住宅に付合しており、供給契約の締結前から購入者がこれを所有していることは、当事者間に争いがありませんでした。所有権の帰属そのものを争点として判断したのは、同日に言い渡された令和6(受)1373号 設備費用請求事件です。
参照法条を条文で確認する──消費者契約法9条1号と民法420条3項
本判決の参照法条は、消費者契約法(令和4年法律第59号による改正前のもの)9条1号、民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)420条1項、および民法420条3項です。判断の骨格は消費者契約法9条1号にあり、民法420条は「違約金」という概念の土台を与えています。
消費者契約法9条1号の文言は、要件を3つに分解できます。
| 段 | 条文の要素 | 意味 |
|---|---|---|
| 1 | 当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項 | まず条項の性質を判定する。契約書の名目ではなく、その条項が果たしている機能で判断される |
| 2 | これらを合算した額が、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの | 次に金額を判定する。基準は「その事業者に一般的・客観的に生ずると認められる損害の額」 |
| 3 | 当該超える部分(を無効とする) | 超える部分だけが無効になる。平均的な損害がゼロであれば、全部が無効になる |
第1段と第2段は別々の判定です。本判決が2段階の構成を取っているのは、この条文の構造をそのままなぞっているからです。
ここで民法420条3項が働きます。同項は「違約金は、賠償額の予定と推定する」と定めています。同条1項は「当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる」と定めており、両者を合わせると、契約書に「違約金」と書かれていなくても、また「損害賠償」と書かれていなくても、実質的に解除に伴う損失の補填として機能する定めは、賠償額の予定として扱われる余地が生まれます。
本件の条項は「設置費用に関して支払う」と書かれていて、違約金とも損害賠償とも書かれていません。それでも消費者契約法9条1号の土俵に乗ったのは、条項の性質を実質で判定する枠組みがこの2つの条文から出てくるためです。
条文の一次情報は、消費者契約法(e-Gov法令検索)および民法(e-Gov法令検索)で確認できます。
条番号の変遷にご注意ください。本判決が適用したのは令和4年法律第59号による改正前の9条1号です。同改正(令和5年6月1日施行)で9条に第2項が新設され、従来の条文は現行法では9条1項1号に位置づけられます。ただし、平均的な損害の額を超える部分を無効とするという1号の実体的なルール自体は変わっていません。
新設された9条2項は、事業者に対し、解除に伴う損害賠償や違約金の支払を請求する場面で、消費者から説明を求められたときは算定根拠の概要を説明するよう努めなければならないと定めています。努力義務ですが、現在の契約で同種の請求を受けた場合、この規定を手がかりに算定根拠の説明を求めることができます。
第1の判断──なぜ「違約金等条項に当たる」とされたのか
最高裁が第1段階で示したのは、本件条項が設置費用の対価を定めたものではなく、短期間の解約を防いで契約を長期間維持することを図り、あわせて先行投資した費用について事業者が被る可能性のある損失を補填することも目的の一つとするもので、実質的にみると解除に伴う損害賠償の額の予定または違約金の定めとして機能する、という判断です。
判決がこの結論を導く過程で挙げた事情は3つあります。
1つ目は、設置費用の性格です。事業者は住宅に設備を設置しながら、住宅の販売会社に設置費用を請求していませんでした。そして購入者は、住宅の購入にあたって販売会社から、その事業者から供給を受ける必要がある旨の説明を受けていました。判決はここから、事業者が住宅の販売会社の協力の下で、住宅を購入した者と優先的に供給契約の締結について交渉できる事実上の地位を確保するため、自らの判断で設置費用を請求しなかったと評価しています。設置費用は、契約を獲得し長期間維持するために先行投資された費用であるという位置づけです。
2つ目は、逓減構造の目的です。事業者は、供給を受けている間は設置費用を請求しないこととする一方で、10年経過前に契約を終了させる場合には支払うべき金額を経過期間に応じて逓減させることとしていました。判決はこの組み合わせを、契約を締結するように購入者を誘引し、あわせて短期間での解約を防止して契約を長期間維持するためのものと評価しています。
3つ目は、設置費用とガス料金の関係の不明確さです。ここが本判決で最も重い事情です。算定額は10年が経過するまで1か月ごとに一定額ずつ減少します。この設計だけを見れば、10年かけてガス料金から設置費用を回収する仕組みのようにも見えます。判決自身も「一見すると」設置の対価を定めたものに見える、という言い方をしています。
しかし契約上、10年経過後にガス料金が減額されるという定めはありませんでした。回収が終わっても料金は同じままです。判決は、設置費用とガス料金の関係が明確にされておらず、設置費用がガス料金から回収されることになっていたのかも明らかではない、と述べています。
さらに判決は、事業者が同種の供給契約を多数締結している事業者であることを踏まえ、既に設置費用の回収が終わっている契約者に対しても従前と同様の料金を設定するなどして、他の契約者の設置費用を負担させることができる料金体系となっていて、実際には契約者全体から得られる料金で設置費用を回収する仕組みとなっていたことがうかがわれる、と認定しました。
3つの事情を重ねると、算定額が設備設置の対価といえるものかどうかは明らかでない、という評価になります。対価でないなら、では何かという問いへの答えが、解約防止と損失補填という機能でした。
この判断で押さえておきたいのは、条項の名目が判断を左右していないことです。契約書には「設置費用に関し支払う」と書かれていました。それでも違約金等条項と評価されたのは、裁判所が条項の文言ではなく、その条項が契約全体の中で果たしている機能を見たからです。逆にいえば、名目が「設置費用」だから対価だ、という説明だけでは、この枠組みでは通りません。
第2の判断──なぜ「平均的な損害は存しない」とされたのか
第2段階で最高裁が示したのは、本件の供給契約と同種の消費者契約の解除に伴い事業者に生ずべき平均的な損害は存しない、という判断です。消費者契約法9条1号は平均的な損害の額を超える部分を無効とする規定ですから、平均的な損害がゼロであれば、条項は全部が無効になります。
判決はまず、平均的な損害の意味を確認しています。一人の消費者と事業者との間で同種の供給契約が解除されることによって、事業者に一般的・客観的に生ずると認められる損害の額です。個別の契約で実際にいくら損をしたかではなく、同種の契約について一般的に生じる額を問う概念です。
そのうえで判決は、事業者側に立ちうる説明を一度受け止めます。本件条項の目的の一つが先行投資費用の損失補填にあるのだから、供給契約が解除されてそれ以降の料金を得られなくなれば、先行投資として負担した設置費用の未回収分の損害が生じたようにも見える、と。
この見え方を否定した理由が2つ示されています。
1つ目は、回収の仕組みです。10年が経過しても料金が減額されることになっておらず、設置費用と料金の関係が不明確なものとされていたという契約内容からすると、ある契約者に係る設置費用は、契約者全体から得られる料金から回収する仕組みとなっていたというべきである、としています。第1段階で認定した事情が、そのまま第2段階の前提として働いています。
2つ目は、料金設定の自由です。本件と同種の供給契約においてプロパンガスの価格に法令上の規制がなく、事業者は自由に料金を設定することができます。判決はこの点を併せて考慮し、事業者としては、解除時点では設置費用の全部を回収できていない契約者が一定数生ずるという事態が起きることを見越して、利益が確保できるように契約者全体の料金を適宜設定し、設置費用が未回収となったことの負担を他の契約者に転嫁することが可能になっていた、と評価しました。
転嫁が可能だったのだから、その事態が起きたとしても未回収分の損害が生じたとはいえない。そして他に平均的な損害に当たり得るものは見当たらない。したがって平均的な損害は存しない、という結論です。
2段階の判断軸を並べると、それぞれ何を問うていたかがはっきりします。
| 段階 | 問い | 判断の決め手 | 結論 |
|---|---|---|---|
| 第1段階 | 本件条項は違約金等条項に当たるか | 設置費用の性格(先行投資)/逓減構造の目的(長期維持)/設置費用と料金の関係の不明確さ | 当たる |
| 第2段階 | 平均的な損害はいくらか | 契約者全体から回収する仕組み/価格に法令上の規制がなく料金設定が自由で、負担を転嫁できた | 存しない(ゼロ) |
自由料金制が、この判決では事業者に不利に働いています。プロパンガスの価格に法令上の規制がないという事実は、通常は事業者が自由に料金を決められるという意味で語られます。同じ事実が、ここでは「未回収の負担を他に転嫁できる立場にあった」という評価に転じました。価格規制がないという構造から、事業者に損害が生じないという結論が導かれています。
原審との判断の差異──東京高裁は何を見て、最高裁は何を見たか
原審の東京高等裁判所(令和5年(ネ)第2212号、令和5年10月26日判決)は、本件条項が違約金等条項に当たらないと判断して、事業者の請求を認容していました。最高裁はこの判断に法令の解釈適用を誤った違法があるとして原判決を破棄し、事業者の控訴を棄却しています。第一審は消費者側が勝訴していましたから、最高裁はその結論に戻したことになります。
3つの審級で判断がどう動いたかを並べます。
| 審級 | 本件条項の評価 | 結論 |
|---|---|---|
| 第一審 | 事業者の請求を棄却 | 消費者側の勝訴 |
| 原審(東京高等裁判所) | 10年間にわたって支払われる料金の中から回収することが予定されていた設置費用について、その未回収分を購入者が支払う旨の合意であって、違約金等条項に当たらない | 事業者の請求を認容 |
| 最高裁判所 | 設置の対価を定めたものではなく、解約防止と損失補填を目的とし、実質的に解除に伴う損害賠償の額の予定または違約金として機能する。平均的な損害は存しないから全部無効 | 原判決を破棄し控訴を棄却(第一審の結論に戻る) |
分岐点は、料金から回収する仕組みが「予定されていた」と見るかどうかにあります。原審は、設置費用が10年間の料金から回収される予定だったという前提に立ち、途中解約はその予定を崩す行為なので未回収分の精算を求める合意だと読みました。この読み方に立てば、条項は精算の定めであって違約金ではありません。
最高裁は、その前提そのものを検証しました。回収が予定されていたのなら、10年経過後には料金が下がるはずです。ところが契約にそういう定めはない。設置費用と料金の関係は契約上明らかにされていない。そして事業者は同種の契約を多数持っていて、回収が終わった契約者からも同じ料金を取り続けられる。それなら、この契約者の設置費用がこの契約者の料金から回収される仕組みだったとはいえない。
同じ契約書を読んで、原審は条項の説明を受け入れ、最高裁は説明が契約の他の部分と整合するかを確かめました。「10年で回収する」という説明が本当なら契約のどこかにその痕跡があるはずだ、という検算です。痕跡がなかったことが、条項の性質決定を変えました。
契約書に書かれた説明を、その契約書自身の他の条項と突き合わせて確かめる。この読み方は、判決を離れても使えます。ご自身の契約書に設備費用の記載があるなら、その費用がどこで料金と結びついているかを探してみてください。結びつきが書かれていない場合、その費用が何の対価なのかは契約書だけでは決まっていません。
補足意見が示した射程──何に及び、何に及ばないか
本判決には林道晴裁判官の補足意見が付されており、判決の射程が及ばなくなる場合を具体的に示しています。判決を自分の契約に当てはめて考えるときは、法廷意見と同じかそれ以上に、この補足意見を確認する必要があります。
補足意見はまず、本件が「無償配管」や「貸付配管」と呼ばれてきた商慣行に関する法的問題点のうち、消費者契約法に関するものについて判断を示したものだと位置づけています。
そのうえで商慣行の問題点を2つ整理しています。1つは、料金と設置費用との関係が不明確とされていることが多く、そのために料金が不透明になっていること。もう1つは、家主が短期間で解約しようとすると高額な設置費用を一挙に支払うことを余儀なくされるため、事業者を選択する自由を阻害するおそれがあることです。
制度側の動きにも触れています。この商慣行については経済産業省や公正取引委員会等によって是正に向けた取組が種々行われてきており、令和6年7月2日に改定された液化石油ガスの小売営業における取引適正化指針において、今後、無償配管の商慣行を行わない方向で取り組んでいくことが望ましい旨が明記されるに至った、としています。改定の背景となった省令改正とガイドライン改正の内容は、経済産業省の公表資料で確認できます。
そして射程です。補足意見は、法廷意見が平均的な損害について述べたところが、事業者が供給契約全体で発生するリスクを計算して料金を適宜設定できる立場にあるということのみならず、設置費用と料金との関係をあえて不明確なものとすることで、ある契約者に係る設置費用を当該契約者からだけでなく契約者全体から回収するという仕組みを構築していたことに着目してなされた判断である、と説明しています。
そのうえで、液化石油ガス法施行規則16条15号の7(令和6年経済産業省令第32号による改正後のもの。令和7年4月2日施行)が三部料金制を義務付けていることに触れ、事業者が、屋内配管の所有権が家主に帰属することを前提として、三部料金制の下で家主が月々負担すべき設置費用の額を基本料金および従量料金と区別して請求するような場合には、本判決の射程は当然には及ばなくなるものと解されると述べています。
三部料金制は、基本料金・従量料金・消費設備等に係る費用の3つに整理して料金等を請求する仕組みです(条文は液化石油ガス法施行規則(e-Gov法令検索)で確認できます)。設備費が独立した費目として毎月示されていれば、設置費用と料金の関係が不明確だという本判決の前提が成り立ちません。
射程の広がりと限界を整理します。
| 論点 | 本判決の射程 |
|---|---|
| 設置費用と料金の関係が契約上明確にされていない契約 | 判断の枠組みが正面から当てはまる |
| 三部料金制の下で設備費が基本料金・従量料金と区別して請求されている契約 | 補足意見により、射程は当然には及ばない |
| 戸建て住宅の購入者と事業者の契約 | 本件がこの類型 |
| 事業として契約する家主・賃貸オーナーと事業者の契約 | 消費者契約法2条1項は「消費者」を個人(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合を除く)と定義しており、同法の適用がない場合がある |
| 配管等の所有権が誰にあるか | 本判決の争点ではない。同日の令和6(受)1373号が民法242条から判断している |
補足意見は最後に、事業者においては今後三部料金制を徹底するなどして料金の透明化を図ることが望まれる、と結んでいます。本判決は請求そのものを一律に否定したものではなく、費用の位置づけを契約上明確にすることを促す趣旨を含んでいます。
配管等の所有権について判断した同日の関連判決は、令和6(受)1373号 設備費用請求事件の解剖で扱っています。
実務への影響──消費者・事業者・家主の3つの視点
本判決の影響は、立場によって意味が異なります。消費者にとっては請求を受けたときの確認手順が変わり、事業者にとっては料金体系の設計が問われ、家主・賃貸オーナーにとってはそもそも消費者契約法が適用されるかという前提から確認が必要になります。
消費者(戸建て住宅の所有者)の場合
解約時に設備費用や残存費用の名目で請求を受けたとき、確認する順序は次のようになります。
- 契約書に、設置費用の額と、解約時の算定式が書かれているかを確認する
- 契約書に、一定期間の経過後に料金が減額される定めがあるかを確認する。この定めがなければ、設置費用と料金の関係は契約上明確でないことになります
- 請求を受けた事業者に、算定根拠の概要の説明を求める。消費者契約法9条2項が事業者の努力義務として定めています
- 三部料金制の下で、設備費が基本料金・従量料金と区別して毎月請求されていたかを、検針票や請求書で確認する
ここから先、その請求が実際に無効になるかどうかは、契約の具体的な内容と事実関係によります。本判決は当該事案の条項について全部無効と判断した事例であり、同種の請求がすべて当然に無効になるわけではありません。争える余地があるかの判断と、実際の対応の決定は、契約書を確認したうえで弁護士その他の専門家に委ねる領域です。
事業者の場合
補足意見が射程外に立つ条件として示したのは、屋内配管の所有権が家主に帰属することを前提としたうえで、三部料金制の下で設備費を基本料金・従量料金と区別して請求することでした。三部料金制は液化石油ガス法施行規則16条15号の7により2025年4月2日から義務付けられています。判決の枠組みに照らすと、この義務の履行の仕方が、費用請求の可否に直接つながる位置にあります。
家主・賃貸オーナーの場合
消費者契約法2条1項は「消費者」を個人と定義し、事業として又は事業のために契約の当事者となる場合を除いています。賃貸経営として供給契約を締結している場合、同法の適用がない場面が生じます。適用がなければ9条1号による無効の主張はできません。判決の結論をそのまま自分の契約に当てはめる前に、まず自分がどの立場で契約しているかを確認する必要があります。
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無料の料金診断ツールを使う令和6(受)204号についてよくある質問(FAQ)
Q プロパンガスの解約時に請求される設備費は払わなくてよいのですか?
令和6(受)204号は、当該事案の条項について消費者契約法9条1号により全部が無効と判断した事例です。判断は契約の内容と料金との関係に依存するため、同種の請求がすべて当然に無効になるものではありません。契約書に料金の減額の定めがあるか、設備費が独立した費目で請求されていたかが確認の起点になります。
Q 消費者契約法9条1号の「平均的な損害」とは何ですか?
消費者契約法9条1号にいう平均的な損害は、一人の消費者との間で同種の消費者契約が解除されることによって、その事業者に一般的・客観的に生ずると認められる損害の額です。令和6(受)204号は、設置費用が契約者全体から得られる料金で回収される仕組みであったことなどから、平均的な損害は存しないと判断しました。
Q この判決は賃貸住宅にも及びますか?
令和6(受)204号は戸建て住宅の購入者と事業者の契約に関する判断です。消費者契約法2条1項は「消費者」を個人と定義し、事業として又は事業のために契約する場合を除いているため、賃貸経営として契約している家主には同法の適用がない場面が生じます。
Q 三部料金制になったら設備費の請求は認められるのですか?
令和6(受)204号に付された林道晴裁判官の補足意見は、屋内配管の所有権が家主に帰属することを前提として、三部料金制の下で家主が月々負担すべき設置費用の額を基本料金および従量料金と区別して請求するような場合には、本判決の射程は当然には及ばなくなると解される、と述べています。
Q 判決の全文はどこで確認できますか?
裁判所公式サイトの裁判例検索で、事件番号・裁判年月日・参照法条・判示事項・裁判要旨を確認でき、判決全文のPDFも公開されています。令和6(受)204号の一次情報URLは、本ページの冒頭の出典欄に掲載しています。
まとめ
この記事のまとめ
令和6(受)204号は、供給開始日から10年経過前の解約時に設置費用相当額の支払を求める条項を、消費者契約法9条1号の違約金等条項に当たるとしたうえで、平均的な損害は存しないとして全部無効とした最高裁判決です。第1段階では、設置費用が契約獲得と長期維持のための先行投資であり、10年経過後に料金が減額される定めがなく設置費用と料金の関係が不明確であったことから、条項が実質的に違約金として機能すると評価されました。第2段階では、設置費用が契約者全体から得られる料金で回収される仕組みであり、価格に法令上の規制がなく負担を他の契約者に転嫁できたことから、平均的な損害は存しないとされました。ただし林道晴裁判官の補足意見は、三部料金制の下で設備費が基本料金・従量料金と区別して請求される場合には、本判決の射程は当然には及ばないと述べています。
原審の東京高等裁判所は同じ条項を「未回収分の精算の合意」と読んで請求を認容していました。最高裁はその読み方が契約の他の部分と整合するかを確かめ、整合しないことを理由に条項の性質決定を変えています。判決は請求を一律に封じたのではなく、費用の位置づけを契約上明確にすることを促しています。
ご自身の契約で設備費用の請求を受けている場合は、契約書に料金減額の定めがあるか、設備費が独立した費目で請求されていたかを確認するところから始めてください。そのうえで争える余地があるかの判断は、契約の具体的な事実関係を踏まえて専門家に委ねる領域です。
配管等の所有権について判断した同日の関連判決は令和6(受)1373号 設備費用請求事件の解剖で、争点別の全体像は法的事例データベースで確認できます。
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- 2026年8月7日:初版公開。裁判所公式サイトの裁判例検索および判決全文により一次情報を確認し、事件番号・参照法条・原審の判断・補足意見が示す射程を整理





判決を読むとき、私が最初に探すのは「裁判所が事実のどこを見たか」です。この判決は、条項の文言そのものより、事業者が住宅の販売会社に設置費用を請求していなかったという事実を先に置いています。つまり、その費用が誰との関係で発生したものなのかを、契約書の外側から確かめている。私が家計の固定費を分析するときも同じ順序を取ります。請求書に書かれた名目ではなく、その費用がどこで発生してどこから回収されているかを追う。この判決は、その手順を裁判所が実際にやってみせた記録です。