プロパンガス配管の所有権は誰に?最高裁 令和6(受)1373号を民法242条ただし書から解剖

プロパンガス配管が住宅に付合すると判断した最高裁令和6(受)1373号について、撤去の困難さ・構造への組み込み・取引市場の不在の3根拠を示した図

令和6年(受)第1373号 設備費用請求事件は、プロパンガス供給のために戸建て住宅に設置された消費設備に係る配管等について、最高裁判所第三小法廷が2025年(令和7年)12月23日に、当該住宅に付合しており民法242条ただし書の適用もないと判断した事件です。上告は棄却され、民集第79巻8号2903頁に登載されています。

「配管はうちの所有物なので、解約するなら買い取ってください」。

契約書に「配管の所有権は事業者にある」と明記されていれば、そう言われて反論できる人は多くありません。設置したのは事業者ですし、書面にも書いてあるからです。

このページでは、その前提を覆した最高裁判決を、事件番号・参照法条・原審の判断まで一次情報で確認できる形に解剖します。所有権が誰にあるかは、契約書の文言ではなく、配管がどう取り付けられているかで決まりました。その判断の道筋を追います。

葉山知世 葉山知世

この判決を読んで印象的だったのは、最高裁が床下の断熱材やシステムキッチンの収納ボックスの話をしていることです。所有権という抽象的な論点が、配管が壁のどこを貫通し、何を取り壊さないと外せないかという施工の細部から決まっている。契約書に何と書いてあるかではなく、現物がどうなっているかで結論が出ています。私は普段、検針票と契約書という紙の上で家計の固定費を分析していますが、この判決は「紙の外にある事実」が紙の記載を覆すことがあると教えてくれました。ご自宅の配管がどこを通っているかを一度見ておく価値はあります。

この記事の結論

  • 最高裁判所第三小法廷が2025年12月23日に言い渡した判決で、結果は上告棄却。裁判官全員一致で、補足意見はない
  • 配管等は住宅に付合したと判断された。根拠は、撤去に住宅の毀損を伴うこと、住宅と一体でなければ経済的効用を発揮しないこと、住宅と別個独立に市場で取引されるものではないことの3点
  • 民法242条ただし書は、付合した物がなお不動産と別個の存在を有する場合にのみ適用される。本件配管は別個の存在とはいえないとされた
  • 所有権が購入者側にあるため、「売買予約と貸与」と題する契約書を文言どおりに売買予約契約と解することはできないとされた
  • 原審は付合を否定していた。最高裁は理由を差し替えたうえで、結論において是認して上告を棄却している

本記事の判断軸は、家計コスト分析調査員 葉山知世が提唱する「公的データ照合型 適正価格判定」(拙著『公的データで読み解く プロパンガス料金の適正水準』に詳述)に基づきます。本記事は同メソッドの第3層「法令・判例の照合層」を用いて、裁判所公式サイトの裁判例検索と判決全文により一次情報を確認し、事件番号・参照法条・裁判要旨・原審の判断を整理する位置づけです。判決が触れていない事項について、当サイトの側から結論を補うことはしていません。

目次

令和6(受)1373号とはどの事件か──事件番号・裁判年月日・法廷・結果

令和6年(受)第1373号 設備費用請求事件は、最高裁判所第三小法廷が2025年12月23日に言い渡した民事判決で、結果は上告棄却です。事業者側の請求を退けた原審の結論が維持され、確定しました。

まず識別情報を確認します。

以下は、裁判所公式サイトの裁判例検索および判決全文(一次情報)を確認して整理したものです。

令和6(受)1373号の識別情報
事件番号令和6年(受)第1373号
事件名設備費用請求事件
裁判年月日令和7年12月23日
法廷名最高裁判所第三小法廷
裁判種別判決
結果棄却
意見の別裁判官全員一致(補足意見なし)
判例集等巻・号・頁民集 第79巻8号2903頁
原審裁判所名東京高等裁判所
原審事件番号令和5年(ネ)第5371号
原審裁判年月日令和6年3月25日
参照法条民法242条

出典

本判決は民集第79巻8号2903頁に登載されています。民集は最高裁判所民事判例集の略称で、最高裁判所が判例としての意義を認めた判決が収録されます。同じ日に同じ小法廷が言い渡した令和6(受)204号は、裁判例検索の「判例集等巻・号・頁」の欄が空欄です。2件は同じ商慣行を扱いながら、判例集への登載の扱いが分かれています。

なお、判例集への登載の有無は判決が確定しているかどうかとは別の問題です。最高裁判所の判決は言渡しによって確定します。事案の確認は、判例集の巻号ではなく事件番号と一次情報URLを起点にしてください。本判決を含む争点別のインデックスは、当サイトの法的事例データベースに整理しています。

何が争われたのか──「売買予約と貸与契約書」という契約の形

争われたのは、戸建て住宅に設置されたプロパンガスの配管等の所有権が誰にあるか、そして「売買予約と貸与」と題する契約書を文言どおりに売買予約契約と評価できるかです。事業者は配管の所有権が自社にあることを前提に、供給契約の解除後に予約完結権を行使し、売買代金の支払を求めました。

判決が確定した事実関係を時系列で並べます。

令和6(受)1373号の事実関係の時系列
時期出来事
設置時事業者が、住宅の販売会社が販売する戸建て住宅に、消費設備に係る配管およびガス栓等を設置
平成29年7月購入者が住宅の販売会社から当該住宅を購入
平成29年8月住宅の引渡しを受ける
平成29年9月購入者が事業者との間で供給契約を締結。あわせて「液化石油ガス供給・消費設備の売買予約と貸与契約書」と題する契約書を用いて本件契約を締結し、供給を受け始める
令和2年9月購入者が事業者に対し、供給契約を解除する旨の意思表示。その後、事業者が予約完結権を行使する旨の意思表示

本件契約の内容は4つの部分から成っていました。

本件契約の条項の構造
条項内容
購入者と事業者は、配管の所有権が事業者にあることを確認したうえ、配管について売買予約契約を締結する
事業者は、購入者が供給契約を解除したときは、売買予約契約の予約完結権を行使することができる
予約完結権は、液化石油ガス法14条1項所定の書面が購入者に交付された日の翌日から15年間存続する
予約完結権の行使により成立する売買契約における配管の代金額は、算定式により得られる配管の残存価値相当額とする

代金額の算定式は次のとおりです。

21万円 −(21万円 × 0.9 × 0.066 × 書面の交付日の翌日から売買契約が成立した日までの経過月数 ÷ 12)

21万円のうち9割にあたる18万9000円に年0.066を乗じると1万2474円になります。1年あたりこの額ずつ残存価値が減っていく設計で、15年でほぼ全額が消化される計算です。予約完結権の存続期間が15年とされていることと対応しています。

事業者の請求は二段構えでした。主位的請求は、購入者が売買契約に基づく売買代金債務を負っており、もう一方の相手方がその債務を併存的に引き受けたなどとして、売買代金等の支払を求めるものです。予備的請求は、仮に消費者契約法9条1号により条項が無効となって売買契約が成立しない場合には、配管の所有権に基づいて配管の引渡し等を求めるものでした。

購入者側は、配管が住宅に付合しており民法242条ただし書の適用はなく、購入者が所有権を有していたのだから本件契約を売買予約契約と解することはできず、売買契約は成立しないと主張しました。あわせて、本件条項は消費者契約法9条1号の違約金等条項に当たり無効になるとも主張しています。

契約条項の有効性を消費者契約法9条1号から判断したのは、同日に言い渡された令和6(受)204号 残存費用等請求事件です。本件では、所有権の帰属という別の入口から結論が出ました。

配管はどう設置されていたか──付合の判断を支えた物理的な事実

付合が認められた前提には、配管が住宅の構造に深く組み込まれていたという物理的な事実があります。判決は、この配管がどこを通り、外すには何を壊す必要があるかを、具体的に認定しました。

判決が確定した設置状況は次のとおりです。

住宅へのプロパンガスの供給は、住宅の外部に設置された貯蔵設備からガスメーターまでの供給設備と、本件配管によって行われていました。本件配管はガスメーターに接続され、住宅の外壁を貫通して内部に引き込まれ、外壁に固定されています。

1階の床下で、配管は2方向に分岐します。1つはシステムキッチンのガスコンロに向かうもの、もう1つは住宅の外部に設置された給湯器に向かうものです。

前者は、1階の床下断熱材および床材を貫通し、システムキッチンの収納ボックスに開けられた穴から引き込まれてガスコンロに接続されています。後者は、住宅の外壁を貫通して外部へ引き出され、コーキング材で外壁に固定されたうえで給湯器に接続されています。

そして判決は、この配管を住宅から撤去するためには、上記の断熱材や収納ボックス等を取り壊す必要がある、と認定しました。

所有権という論点が、施工の細部から判断されています。外壁の貫通部、床下の断熱材、収納ボックスに開けられた穴、コーキング材による固定。いずれも設置工事の過程で生じた不可逆的な加工です。この加工の積み重ねが、次の章で見る3つの判断根拠の土台になりました。

参照法条を条文で確認する──民法242条の本文とただし書

本判決の参照法条は民法242条だけです。この1か条の本文とただし書の関係を押さえると、判決の構造が見通せます。

民法242条の条文は次のとおりです。

  • 本文:不動産の所有者は、その不動産に従として付合した物の所有権を取得する。
  • ただし書:ただし、権原によってその物を附属させた他人の権利を妨げない。

本文が定めているのは、動産が不動産に「従として付合」した場合、その動産の所有権は不動産の所有者に移る、という原則です。付合が認められれば、それまで誰が持っていたかにかかわらず、所有権は不動産の所有者のものになります。

ただし書は、その例外です。権原(たとえば賃借権や地上権など、他人の不動産に物を附属させる正当な根拠)によって物を附属させた者の権利は妨げられません。事業者が配管の所有権を主張する場合、通常はこのただし書に望みをつなぐことになります。条文の一次情報は民法(e-Gov法令検索)で確認できます。

判断の順序は次のようになります。

民法242条による判断の順序
問い結論が「はい」の場合
1配管は住宅に従として付合したか本文により、所有権は住宅の所有者に移る
2ただし書の適用があるか附属させた者の権利が妨げられず、所有権は移らない

本判決は第1段で付合を認め、第2段でただし書の適用を否定しました。両方の関門を通した結果、配管の所有権は住宅の所有者にあるという結論になっています。

なお、本件では事業者と購入者が契約書で「配管の所有権が事業者にある」ことを確認していました。それでも所有権が購入者にあるとされたのは、付合による所有権の移転が、契約の締結よりも前の段階で法律上生じていたためです。契約は既に起きた事実を後から書き換える力を持ちません。

付合を認めた3つの判断根拠

最高裁が付合を認めた根拠は3つです。撤去に住宅の毀損を要すること、住宅と一体でなければ経済的効用を発揮しないこと、そして住宅と別個独立に市場で取引されるものではないこと。この3つを重ねて、配管を住宅とは別個に所有権の客体と解すべき必然性は乏しい、と結論づけています。

付合を認めた3つの判断根拠と対応する認定事実
#判断根拠対応する認定事実
1配管を撤去するためには住宅およびその住宅設備を相当程度毀損する必要があり、その撤去や住宅等の復旧には相応の手間や費用を要することが見込まれる外壁の貫通と固定、床下断熱材および床材の貫通、システムキッチンの収納ボックスの穴、コーキング材による固定。撤去には断熱材や収納ボックス等を取り壊す必要がある
2配管は住宅の構造に合わせて設置されていて、住宅と一体となって利用されることではじめてその経済的効用を発揮するものである。加えて、撤去後の配管の経済的価値は乏しいとうかがわれるガスメーターから住宅内部を経てガスコンロと給湯器に至る経路が、その住宅の間取りに合わせて構成されている
3戸建て住宅に設置されている状態のプロパンガスの消費設備に係る配管が、当該住宅と別個独立に公の市場において取引されるものであるとはうかがわれない中古の屋内配管が単体で売買される市場が確認されない

判決は、1と2を組み合わせたところで一度、中間の評価を置いています。撤去には相応の費用がかかり、撤去後の配管の経済的価値は乏しい。そうであれば、相応の費用等をかけて配管を撤去する意義は見いだし難い、と。

つまり、外そうと思えば外せるかどうかではなく、外すことに意味があるかを問うています。物理的な分離可能性ではなく、経済的な分離可能性が判断の軸になっているところが、この判決の押さえどころです。

そこに3を加えて、配管を住宅とは別個に所有権の客体となるものと解すべき必然性は乏しい、という結論に至ります。

3つの根拠はいずれも、契約書に書かれていない事実から導かれています。誰が費用を負担したか、契約書に所有権をどう書いたかは、この判断に登場しません。

なぜ「ただし書」が使えなかったのか──先例が定めた適用場面

民法242条ただし書が使えなかったのは、ただし書の適用場面そのものが限定されているからです。最高裁は、ただし書は不動産に付合した物がなお当該不動産とは別個の存在を有する場合にのみ適用される、という先例を引いたうえで、本件配管が住宅と別個の存在を有するとはいえないと判断しました。

判決が参照したのは、最高裁判所昭和38年(オ)第489号 同39年9月8日第三小法廷判決(集民75号181頁)です。61年前の先例が、現在の商慣行をめぐる判断の要になりました。

この先例が定めた枠組みを整理すると、ただし書の関門は2段構えになっています。

民法242条ただし書の2段の関門
要件本件の当てはめ
1付合した物が、なお当該不動産とは別個の存在を有すること撤去の困難さ、住宅と一体でなければ経済的効用を発揮しないこと、市場で別個に取引されないことから、別個の存在を有するとはいえない
2権原によってその物を附属させたこと第1段で否定されたため、判断に至らない

ここが実務上、最も見落とされやすい点です。「権原があればただし書で所有権を留保できる」という理解は、半分しか正しくありません。権原の有無を検討する前に、その物が不動産と別個の存在を有するかという関門があります。本件では、この最初の関門で止まりました。

そして第1段の判断材料は、付合を認めた3つの根拠と共通しています。撤去の困難さ、一体でなければ発揮されない経済的効用、市場の不在。付合を認めた事情が、そのままただし書を封じる事情としても働いています。

同じ事実が2つの判断を貫いているため、事業者側が本文の適用を認めたうえでただし書に活路を求める、という組み立てが取りにくい構造になっています。

葉山知世 葉山知世

昭和39年の判例がここで効いているのは、偶然ではないと私は見ています。付合の枠組みは60年以上変わっていないのに、その間に「配管は事業者の所有物」という前提の契約書が業界に広く行き渡りました。法律の側が動いたのではなく、実務の側が法律から離れていったということです。私が固定費の構造を調べていて何度も出会うのは、この「業界の常識」と「法令の条文」のずれです。この判決は、ずれを埋め合わせていたのが契約書の文言だったことを可視化しました。契約書は法律を書き換えられない。当たり前のようで、実務では見失われやすい原則です。

原審との判断の差異──結論は同じ、理由が違う

原審の東京高等裁判所(令和5年(ネ)第5371号、令和6年3月25日判決)も事業者の請求を退けていました。しかし理由は最高裁と正反対です。原審は配管が住宅に付合していないと判断し、最高裁は付合したと判断しました。最高裁は理由を差し替えたうえで、原審の判断は結論において是認することができるとして上告を棄却しています。

2つの判決の論理経路を並べると、差がはっきりします。

原審と最高裁の論理経路の比較
原審(東京高等裁判所)最高裁判所
配管の付合付合していない付合している。民法242条ただし書の適用もない
所有権の所在事業者にあった契約締結以前から購入者にあった
本件契約の性質売買予約契約と解される。売買契約の成立を肯定売買予約契約と解することはできない
代金額を定めた条項の評価違約金等条項に当たり、その全部が無効この評価に立ち入らない
結論主位的請求・予備的請求とも棄却結論において是認。上告棄却

上告理由が突いていたのは、原審の論理の内部矛盾です。事業者側は、本件契約を売買予約契約と解して売買契約の成立を肯定しながら、その代金額を定めた条項を違約金等条項として全部無効とした原審の判断には法令の解釈適用を誤った違法がある、と主張しました。

最高裁はこの指摘を受け止めています。判決は、本件契約が売買予約契約であるとすると、上告理由が言うとおり、本件条項は配管の所有権を事業者から購入者に移転することの対価である代金額について定めたもので、違約金等条項に当たらないと解する余地がある、と述べました。

売買の代金は、解約に伴う損害の賠償でも違約金でもありません。売買予約契約だと認めた以上、その代金額の定めを違約金として無効にする筋道には無理がある。ここまでは事業者側の主張が通っています。

しかし最高裁は、その前提を外しました。原審は配管が住宅に付合していないという前提で売買予約契約と解したのだが、配管が住宅に付合し民法242条ただし書の適用もないのであれば、本件契約が締結される以前から購入者が所有権を有していたことになる。自分がすでに所有している物について、他人から買う予約をするという契約は成り立ちません。

そのような場合、事業者から購入者への配管の売買予約について定めた契約書を、その文言どおりに理解することは相当ではない。したがって本件契約を売買予約契約と解することはできない、というのが最高裁の判断です。

そうなると、本件契約が売買予約契約であって売買契約が成立すること、または事業者が配管の所有権を有していることを前提とする主位的請求と予備的請求は、いずれも理由がないことになります。原審が両請求を棄却した結論は、理由は違えども維持されました。

判決の読み方として押さえておきたいのは、「棄却」という結果が原審の理由づけを認めたことを意味しない場合があるということです。本件で先例としての意義を持つのは、付合とただし書についての判断であり、原審が示した違約金等条項の評価ではありません。判決を引用するときは、結論だけでなく理由のどの部分が判断されたのかを確認する必要があります。

射程と実務への影響──何に及び、何に及ばないか

本判決の射程は、戸建て住宅に設置された屋内配管の所有権に及びます。契約書に所有権の所在をどう書いたかにかかわらず、付合が認められれば所有権は住宅の所有者のものになる、という判断です。一方で、費用請求の可否そのものについては、同日の令和6(受)204号が別の法律論から判断しています。

令和6(受)1373号の射程
論点本判決の射程
戸建て住宅に設置された屋内配管の所有権正面から判断されている。本件がこの類型
契約書に「配管の所有権は事業者にある」と記載がある場合付合が認められれば、記載があっても所有権は移らない
民法242条ただし書による所有権の留保配管が住宅と別個の存在を有するといえない限り、適用されない
設置費用の支払を求める契約条項の有効性本判決の争点ではない。令和6(受)204号が消費者契約法9条1号から判断している
賃貸集合住宅の配管本件は戸建て住宅についての判断。設置の状況が異なる場合の当てはめは、個別の事実関係による
供給設備(貯蔵設備からガスメーターまで)本件で付合が判断されたのは屋内配管等であり、供給設備は判断の対象外

同日の2判決の関係を整理すると、無償貸与配管をめぐる商慣行が2つの入口から検討されたことがわかります。

同日に言い渡された2判決の関係
判決参照法条問い結論
令和6(受)1373号民法242条配管の所有権は誰にあるか住宅に付合しており、住宅の所有者にある
令和6(受)204号消費者契約法9条1号設置費用の支払を求める条項は有効か違約金等条項に当たり、全部無効

なお令和6(受)204号では、消費設備が住宅に付合しており購入者が所有していることに当事者間の争いがありませんでした。本件1373号は、その前提となる論点そのものを判断しています。

消費者(戸建て住宅の所有者)の場合

「配管は事業者の所有物だから買い取ってほしい」「撤去する」と言われたとき、確認する順序は次のようになります。

  1. 配管が住宅のどこを通り、外壁や床下のどこを貫通しているかを確認する
  2. 撤去する場合に、住宅のどの部分を取り壊す必要があるかを事業者に確認する
  3. 契約書に「所有権は事業者にある」旨の記載があっても、それだけで所有権が決まるわけではないことを前提に読む

そのうえで、実際に所有権が誰にあるかの判断と対応の決定は、配管の設置状況という具体的な事実関係によります。争える余地があるかどうかは、契約書と現況を確認したうえで弁護士その他の専門家に委ねる領域です。

事業者の場合

契約書に所有権の所在を記載しても、付合が認められる設置状況であれば、その記載によって所有権を留保することはできません。屋内配管の所有権が家主に帰属することを前提とした契約設計と、費用の請求方法の見直しが、2判決に共通する示唆です。

家主・賃貸オーナーの場合

本件は戸建て住宅の事案です。賃貸集合住宅の配管については設置の状況が異なり、当てはめは個別の事実関係によります。ただし付合の判断枠組み自体は、住宅の種別を問わず民法242条から出発します。

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令和6(受)1373号についてよくある質問(FAQ)

Q プロパンガスの配管は誰の所有物ですか?

令和6(受)1373号は、戸建て住宅に設置された配管等が当該住宅に付合し、住宅の所有者が所有権を持つと判断した事例です。判断の根拠は、撤去に住宅の毀損を伴うこと、住宅と一体でなければ経済的効用を発揮しないこと、住宅と別個独立に市場で取引されないことの3点で、個別の判断は設置の状況によります。

Q 契約書に「配管の所有権はガス会社にある」と書いてあっても意味がないのですか?

令和6(受)1373号は、付合により契約締結前から購入者が所有権を有していた以上、事業者から購入者への売買予約について定めた契約書を文言どおりに理解することは相当ではないとしました。付合による所有権の移転は契約より前に法律上生じているため、後からの記載では動きません。

Q 民法242条の「付合」とはどういう意味ですか?

民法242条にいう付合は、動産が不動産に従として結合し、不動産の所有者がその動産の所有権を取得することを指します。令和6(受)1373号では、撤去の困難さと、撤去する意義が見いだし難いことが判断材料になりました。物理的に外せるかどうかではなく、外すことに経済的な意味があるかが軸です。

Q 民法242条ただし書はどんなときに使えるのですか?

民法242条ただし書は、不動産に付合した物がなお当該不動産とは別個の存在を有する場合にのみ適用されます。令和6(受)1373号は、最高裁昭和39年9月8日第三小法廷判決を参照してこの枠組みを示し、本件配管は住宅と別個の存在を有するとはいえないとして、ただし書の適用を否定しました。

Q 同じ日に出たもう1件の最高裁判決とはどう違うのですか?

令和6(受)1373号は配管の所有権を民法242条から、令和6(受)204号は設置費用の支払を求める契約条項の有効性を消費者契約法9条1号から判断しています。同じ商慣行を別々の法律論で扱った関係にあり、1373号は棄却、204号は破棄自判と結果も異なります。

まとめ

この記事のまとめ

令和6(受)1373号は、戸建て住宅に設置されたプロパンガスの消費設備に係る配管等が当該住宅に付合し、民法242条ただし書の適用もないと判断した最高裁判決です。付合を認めた根拠は、撤去に住宅および住宅設備の相当程度の毀損を要すること、住宅と一体となって利用されてはじめて経済的効用を発揮し撤去後の経済的価値が乏しいこと、設置状態の配管が住宅と別個独立に公の市場で取引されるものとはうかがわれないことの3点です。所有権が契約締結前から住宅の所有者にあった以上、「売買予約と貸与」と題する契約書を文言どおりに売買予約契約と解することはできないとされ、上告は棄却されました。民集第79巻8号2903頁に登載されています。

ただし書が使えなかったのは、その適用場面が「付合した物がなお不動産とは別個の存在を有する場合」に限られるためです。最高裁昭和39年9月8日第三小法廷判決が示した枠組みが、そのまま本件に当てはめられました。

原審は付合を否定して売買予約契約の成立を肯定し、そのうえで代金額の条項を違約金等条項として無効としていました。最高裁はその理由を採らず、付合を認めることで契約の性質決定そのものを覆したうえで、結論において是認して上告を棄却しています。結論が同じでも、先例としての意義があるのは最高裁が示した理由の部分です。

契約書に「所有権は事業者にある」と書かれていても、それだけで所有権は決まりません。ご自宅の配管がどこを通り、外すには何を壊す必要があるかを確認するところから始めてください。そのうえで争える余地があるかの判断は、具体的な事実関係を踏まえて専門家に委ねる領域です。

設置費用の支払を求める条項の有効性を判断した同日の関連判決は令和6(受)204号 残存費用等請求事件の解剖で、争点別の全体像は法的事例データベースで確認できます。

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更新履歴

  • 2026年8月7日:初版公開。裁判所公式サイトの裁判例検索および判決全文により一次情報を確認し、事件番号・参照法条・付合の判断根拠・原審との差異を整理

この記事を書いた人

家計コスト分析調査員 葉山知世 プロフィール写真

葉山 知世はやま ちせ

家計コスト分析調査員/家計インサイトラボ 代表

家計コスト分析調査員。家計インサイトラボ代表。公的統計データから家計の固定費を逆算分析する「公的データ照合型 適正価格判定」を提唱。一般社団法人プロパンガス料金適正化協会と共同調査で、LPガス業界の料金構造を分析しています。

公正比較メディア監修者認定(消費生活・家計コスト分野)保有
監修:一般社団法人プロパンガス料金適正化協会 本部理事/運営:一般社団法人プロパンガス料金適正化協会

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